風景写真家佐藤尚「さめがわ便り発信事業⑦」

福島県鮫川村

こんにちは、風景写真家の佐藤尚です。私は全国47都道府県を旅しながら、風景写真を撮影しています。

近年、秋の訪れがゆっくりになり、その一方で冬は早めにやってくるように感じています。今年の紅葉はどうだろう──毎年条件が違うだけに、いつも気になります。

紅葉の“色”は、夏の台風の有無、夏の気温、秋になってからの冷え込み具合など、その年ごとの自然環境に左右されます。10月になり、北日本や山岳地帯から届いてきた紅葉の便りは「近年まれに見る鮮やかさ」。あの猛暑の夏を思えば意外でしたが、そのニュースを聞いて気持ちが高まってきました。11月に見頃を迎える鮫川村の紅葉も期待できそうです。

そして迎えた11月中旬。まず最初に向かったのが、鮫川村が誇る紅葉の名所・強滝(こわだき)です。国道349号線沿いに約2km続く急流で、“滝”と名が付いていますが、一つの大きな滝ではなく、落差のある箇所が点在する渓流です。周囲にはカエデが多く、秋になると全体が真っ赤に染まります。

強滝の道路脇駐車スペースに車を停めると、目に飛び込んできた、やはり素晴らしい色づき。国道が広く整備されたことで道路側の歩くスペースも確保され、撮影の自由度がぐっと上がりました。真っ赤なカエデを手前に置き、構図を整えてシャッターを切ろうとすると、渓流に抜けていく風で枝先が揺れます。タイミング悪く、木材を積んだトラックが国道を走り抜けると、その風でも一気に揺れてしまいます。それでも、風が止む“ほんの一瞬”を待つんです。赤いモミジ、白く砕ける水流、その対比が鮮烈で、心の奥から「ああ、美しい」と思いました。

そして次に、江竜田の滝へと向かいました。江竜田の滝はたくさんの滝の総称。滝へ近づくと、手前に大きなカエデがあります。これまで訪れたときは、タイミングが合わなかったのか、赤く色づいた姿を見た記憶がありません。ところが今年は違いました。やはり今年は色づきがよいのでしょう。カエデが見事に真っ赤に染まっていました。その赤を前景に置き、手前の二見ヶ滝、さらに奥に見えるそうめんの滝を重ねて、奥行きのある構図をつくります。やはり、木々の紅葉と白い水流の調和が美しい。赤や黄色に囲まれた滝の流れは、一段と際立ち、まさに“秋の深まり”を感じる光景でした。

そして天狗橋へ。おっと、ここはこれまでの場所より標高が高いのでしょうか。紅葉はすでに終わっていました。ホオなのかトチなのか、種類ははっきりわかりませんが、大きな落ち葉が遊歩道いっぱいに敷き詰められ、その上を歩くとサクサクと音がして、とても気持ちが良かったです。天狗橋を後にし、鮫川の下流にいくと、川底に岩盤が現れ、急流となっている場所がありました。いわゆる“なめとこ”と呼ばれる地形でしょうか。急流の中、たくさんの落ち葉が流されず、岩にしがみつくように貼りついていて、秋から冬へと移り変わる季節を静かに物語っていました。水面には輝く光の線が現れていてその美しさと供にシャッターを切りました。

田んぼでは、稲わらを干していました。村のあちこちでその光景を見かけます。以前よりも数が増えているような気がします。家畜用の餌でしょう。天日干しされた稲わらは、きっと栄養たっぷりですね。丁寧に積み上げられリズムカルに配置された藁ボッチを眺めていると、なんだか心が和みます。

役場の近くにある長遠寺(ちょうおんじ)は、春のシダレザクラが有名ですが、秋の紅葉も見事です。イチョウの大樹とカエデの大樹の迫力ある競演が本当に素晴らしい。澄んだ青空に紅葉が映えていました。

紅葉の当たり年ということで訪ねた鮫川村でしたが、期待どおりの美しさを見せてくれました。レンズを向けながら、「最高の紅葉に出会えてよかった」としみじみ感じました。やっぱり鮫川村は、訪れるたびにいろんな景色に出合えます。また季節を変えて、ゆっくり訪ねたいと思います。